好きだって嫌いだって

近頃の京葉モノレールは、ラッピング車の宝庫である。ごく一部の学生の間では、「京葉モノレールのラッピング車どれだけ思い出せるかな」という遊びが流行っているらしい。そんな遊びをするほど暇じゃない、テスト勉強で忙しいんだというある優等生も、きっと、「今日はこのラッピングだから当たり」「今日ははずれだわ」ぐらい思っているはずだ。

 

京葉モノレールでラッピング車が走り始めたのは、2000年代初め頃だという。当時のラッピングは窓の下だけで、デザインも文字が主体。今のラッピングに比べると非常に地味だったらしい。しかし今では左右でデザインが違うラッピングは珍しくなく、内装もラッピングしている編成、さらに窓にもラッピングしている編成がある。また、その種類もシンプルなものからアニメっぽい絵が描かれたものまで、たくさんある。

 

私が高校生だった数年前も、今ほどではないがラッピング車が多く走っていた……

 

「あ~あ。新型車両行っちゃったよ」

 

学校の最寄り、S駅は、日中12分間隔、4時30分ぐらいになると10分間隔になる。その日はとても寒い日だった。かじかんでろくに動かない手を、あったかい缶コーヒーで温める。

 

「おまえ、最近やたらとブラックばかり飲むよな。前は練乳入りの黄色いやつばっかりだったのに」

 

「好きで飲んでるだけだ」

 

「本当か?? 中二病が再発でもしたんじゃないか?? あと、彼女ができたとか」

 

「んなわけ、ねえだろ」

 

他愛もない雑談をしても、次の電車までの時間があった。

 

「いつも思うんだけど、モノレールの車両って、選べたらいいのにな」

 

「なんで??」

 

「爽やかな朝に、葬儀屋の名前が書かれたモノレールは少しテンション下がるよ……」

 

「まあな。それより、最近窓にラッピングしているモノレールあるじゃん?? あれ、外の景色が角度によっていまいち見にくくて、好きになれないんだよな……」

 

「わかる。まあ、慣れなんだろうし、外から見る分には好きなんだけどな」

 

「あとさ、アニメのアナウンスのやつあるじゃん?? ああいうの、俺苦手で」

 

「ああ、あるね。あれってアニメのアナウンスは時間限定だった気がするな。この前朝乗ったけど、普通のアナウンスだったぞ」

 

「そういわれると、いつだかの朝乗った時も普通のアナウンスだったな」

 

誰にでも好きなモノレールがあるし、嫌いなモノレールがある。せっかく気持ちよく起きられた朝、嫌いなモノレールに出くわすのは、俺だっていやだった。そう思うと、次に来るモノレールを選べたら、確かにいいなと思った。しかし、現実はそう甘いものではない。どうしても、嫌いなモノレールが来てしまうときは来てしまうのだ。

 

駅の接近放送が流れ、電光掲示板がチカチカと点滅した。そして、モノレールの姿が見えてきた。

 

「ああ、前にもラッピングしていて、水色だと、俺が嫌いな窓にもラッピングしているやつじゃん……」

 

「でもさ、中にもラッピングしているのが面白いよね」

 

高校生だったころの、とある放課後のひととき。でも、今はその水色で窓にラッピングしているモノレールは走っていない。アニメのアナウンスをするモノレールもとっくに運行を終了した。でも、新しいデザインのラッピング車両が、あれから次々と登場していった。

 

駅も、街の光景も、あの時とさほど変わっていない。けれど、モノレールだけは、数年の間にずいぶん変わってしまったような気がする。たまにあの時から走り続けている葬儀屋のモノレールを見ると、ついあの時の友人が思い浮かぶ。

 

その友人は八王子の方へ引っ越してしまって、なかなか会えない。けれど、今度その友人が千葉に戻ってくるという。果たして、新しいラッピングが次々と登場した京葉モノレールを見て、そしてあまり変わっていないS駅のホームを見て、何を思うんだろうか。


※当ページの内容はフィクションです。

当ページ最終更新日 2018年11月19日

当ページ公開開始日 2018年11月19日